27日 マナリー
「あ、日本人ですか??」
マナリーに着いて少しホテルを探していたときに、挑発で髪を後ろで結んでいる日本人の男に声をかけられる。どう考えても怪しい雰囲気だった。
「あー助かった!バック盗まれちゃって、お金もパスポートも何もなくなっちゃったんですよ。少し話し聞いてくれませんか?チャイでも飲みながら」
お腹もすいていたし、じゃあちょっと飯を食べるついでに話でも聞くかということで僕はその男とご飯を食べに行った。正直言って僕はその男を一切信用していなかった。それはその男の風貌や雰囲気や、今までの旅の勘からである。だからバックも盗まれないようにはきつく持っていたし、彼の前には基本的に立たなかった。まぁこれも一つの経験だと思った。
その男は、18の頃から世界を旅をしていて、お金がなくなったら日本で働き、海外に出て、の繰り返しの生活をしているという。お互いの旅の話をしながら、ご飯を食べ、お金がないというその男に僕はおごった。ご飯が食べ終わり、ゆっくりしてると、その男がお金を貸してくれないかと言う。いくら?と聞くと、一週間後に家族からお金が振り込まれるから、それまでの生活費700RSを貸して欲しい。お金は家族を通して払うから、と。
700RSは日本円で行ったら1200円といったところだろうか。日本円で考えたら大したように感じないが、一ヶ月の貧乏旅をしてる自分にとってその金額は少なくなかった。結局僕はその男に700RSを貸した。もしお金が返って来なかったとしても、1000円ぐらいだしいいかと。ふたり分の食事の会計を済まして、ふと後ろをみたらその男はいなかった。逃げられたのだ。
その男の行為が僕に与えた影響は大きかった。金銭的なショックではない、同じ日本人にお金を騙し取られ、最後に言葉もなく逃げられたことに僕はショックだった。僕はその男のことを最初から最後まで信じていなかった。お金が返ってこないということは想定していたが、事が起こった時は本当にショックだった。なんでこうこうことをするんだろう。お店を出て周辺を歩いたが、もちろんその男はいなかった。いるはずもない。
家族と住所と電話番号が書いてある紙を渡されたが、正直言って確認する気にもなれなかった。ドイヤスヒロという。品川在住のようだが、それも定かではない。
その男を疑う方法はいくらでもあった。電話番号があれば、まずその電話番号が正しいのを確認してからお金を渡せばいい。何かあったときのために、顔写真をとっておけばいい。「もし逃げたらネットで晒すよ?」とでも言えばいい。おそらく30時間の陸路の旅で疲れていて判断力が鈍っていたこと、新しい土地に着いて少し心が落ち着いて居なかったのが原因だったのだと思う。そういえばネパールやカンボジアの国境でボッタくられたり、マレーシアでiPhoneを盗まれたのも新しい土地に着いた日だ。
お金をとられてから終始落ち着かなかったが、マナリーから4kmほどの場所にあるヴァシシュト村の温泉に入ったら、どうでもよくなった。1ヶ月ぶりの湯はとても気持よかった。全身が癒された。むしろ、考える機会を与えてもらったとポジティブに考えられるようになった。
旅では多くのトラブルが起こるし、やるせないことも多い。でも、自分の力では解決しないことも多いし、どれだけイライラしても何も始まらない。これも旅なんだと、人生なんだと。トラブルをむしろ楽しんで、その経験を今後に活かしてやる、いい経験をさせてもらった、そんな気持ちになれるようになった。
温泉効果すごい。
※マナリーは他にも日本人にお金を盗まれるという被害が多いようです。もし、マナリーに行く人は気をつけてください。