パイロットフィッシュは、高級熱帯魚を水槽に入れる前に、水槽の環境を作るための魚。この魚のことは、大崎善生さんの小説「パイロットフィッシュ」に出てきて、僕はそこでこの魚の存在を知った。この小説を知ったのは、大学の1年生の時。地元の本屋で、表紙でピンときて、手にとったのがきっかけだった。
たぶん、もう10回くらい読んだんじゃないかな。ただ、何年か読まないと詳細のストーリーは忘れてしまって、こないだ好きな小説を「パイロットフィッシュ」って答えた際に、上手く話を説明することができなかった。
「青春小説。透明感があって、この作品の文章の雰囲気が好きです。」という抽象的な答えしか言えなかった。いや、それはそれで悪いことじゃない。人の記憶なんてそんなもんだと思う。
久しぶりに読みたくなって、Amazonでこの本を買った。3冊目。実は、パイロットフィッシュは世界一周中も持っていて、誰かにあげてしまったんだ。そして、高円寺のアール座読書館で、1時間半くらいで読みきってしまった。相変わらず、この作品の空気感が好きだった。そして今、読んだ衝動に任せて、この文章を書いている。
「人は、一度巡りあった人と二度と別れることはできない―。午前二時、アダルト雑誌の編集部に勤める山崎のもとにかかってきた一本の電話。受話器の向こうから聞こえてきたのは、十九年ぶりに聞く由希子の声だった…。記憶の湖の底から浮かび上がる彼女との日々、世話になったバーのマスターやかつての上司だった編集長の沢井、同僚らの印象的な姿、言葉。現在と過去を交錯させながら、出会いと別れのせつなさと、人間が生み出す感情の永遠を、透明感あふれる文体で繊細に綴った、至高のロングセラー青春小説。吉川英治文学新人賞受賞作。」
上の文章を読んで、「え」って思う人もいるかもしれないけれど、そんなあらすじが背表紙にある本の話。人の記憶って面白いもので、この背表紙と1ページ目を読んで、一気に全体のストーリーを思い出してしまった。読んだことない人がほとんどだと思うので、詳細なストーリーは書かない。
村上春樹の日常の描写を彷彿させるような内容で、本人もそういった影響を受けたと書いてあるけれど、僕は大崎さんの文章のほうが好きだったりする。透明感があって優しい。
言葉の表現、比喩がとても心地よい。性描写やキザな表現が苦手な人はいるかもしれないけれど、とてもいいと思う。自分の腹の底にストン、ストンと落ちていく。
特に、自宅でビールを飲みながら、玉ねぎを5分間弱火で炒めて、5分間火を止めてを繰り返すシーンはたまらない。その玉ねぎの甘い匂いを想像してしまう。そうやって、どんどんこの小説の世界に引きずり込まれていく。
最近はもっぱらKindleで本を買っていて本を読んでいるのだけど、紙の本はやっぱりいい。機能的とかじゃなくて、紙質から、表紙のデザイン、色味まで含めて1つの本なんだと思う。
当たり前だけれど、本は繰り返し読むべきだと改めて思った。いい本であればあるほど、読む度に何かしらの新しい発見がある。本を読むことと人と話すことは一緒だって言うけれど、本当にそうで、1回の対話でわかることなんて少ない。
久しぶりに読んで、改めて大崎善生さんに会ってみたくなった。100のリストにも書いたけど、なんとか今年中に会えるよう動いてみようと思う。別に「これをすごい話したい!」とかはなくて、ただただ自分が熱中したものを生み出した人に会ってみたい。で、とりとめないのない質問してみたい。「昨日の夜、何食べましたか?」とか笑。たまにそんな人がいる。
別に旅の本でもなんでもないんだけど、またどこかいく時に、持っていきたいと思う。
アジアンタムブルーも好きだけど、まずはパイロットフィッシュから読んでほしい。
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